2025年11月コラム=深い悲しみ=びわの花の候

コラム

=深い悲しみ=びわの花の候

 メディアはこぞって戦争がいかに悲惨であり残酷なものかと語ります。現在も戦争をしている国があり、戦争だけでなく世界中で恐ろしい事件や事故が頻発し不安が募る一方です。
 私の子供の頃の記憶ですが歩いて五分ほどの農家に私の父の妹の「ふくさん」が嫁いでいました。その叔母さんは農作業の行き帰りに私の祖母、彼女にとっては母親が住む実家に時々寄っては休んでいましたから、ふくさんの姑は「困った嫁だ」と思っていたことでしょう。その姑の息子は「誠さん」、ふくさんの二度目の夫で俳優の天地茂によく似た好男子でした。そんなふくさん、誠さん夫婦には五人の子供がいましたが、長女のA子ちゃんには少し心配な問題もあり、ふくさんは心を痛めていたことでしょう。その内、A子ちゃんだけは戦死した誠さんのお兄さんの子だと知りました。ふくさんは最初の夫を戦争で亡くし弟の誠さんと逆縁婚でした。「当時はそういうことは珍しいことではなかった」と祖母は子供の私に言いました。誠さんは私を連れて時々映画を見に行き、帰りに私の父と好きなお酒を飲みながら、今日観た映画のことを最初から最後まで私が話すのを「よく覚えているなァ」と笑顔で飽きずに聴いてくれました。誠さんは好きな人はいなかったのだろうか、幸せだったのかしら、と私は考えます。戦争の被害者は私のすぐ近くにもひっそりと居りました。

会長 伊藤聖優雨